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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)7394号 判決 1982年2月25日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 今野昭昌

同 遠藤寛

同 渡辺憲司

被告 三栄建設株式会社

右代表者代表取締役 三瓶克

被告 三瓶克

右被告両名訴訟代理人弁護士 佐伯仁

同 田中健一郎

被告ら補助参加人 第一火災海上保険相互会社

右代表者代表取締役 西原直廉

右訴訟代理人弁護士 早川律三郎

主文

一  被告三栄建設株式会社は原告に対し、金一〇七八万一四六円及びこれに対する昭和五三年九月一三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告三栄建設株式会社に対するその余の請求及び被告三瓶克に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告三栄建設株式会社との間においては、原告に生じた費用の四分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告三瓶克との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金三六一六万七〇二一円及びこれに対する昭和五三年九月一三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

昭和五一年五月四日午前九時三〇分ころ、東京都板橋区成増二丁目一二番一三号先路上において、原告運転の第二種原動機付自転車(登録番号清瀬市さ一六七、以下原告車という。)が川越方面から池袋方面に向かって時速約四〇キロメートルの速度で道路左側を直進中、進行方向左前方の路外駐車場から車道に進出しようとしてガードレールの切れ目から出てきた訴外小池則雄(以下、訴外小池という。)運転の普通乗用自動車(登録番号練馬五五ひ九四四四、以下、被告車という。)と衝突し、原告が左腎破裂、膵損傷、後腹膜出血、左第三ないし第六肋骨々折、左肩打撲兼関節拘縮の傷害を負う事故(以下、本件事故という。)が発生した。

2  責任原因

(一) 被告三栄建設株式会社(以下、被告会社という。)は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)第三条により、原告に生じた後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告三瓶克(以下、被告三瓶という。)は、被告会社の代表者であるが、被告会社は被告三瓶の個人会社であり、被告会社に代って事業を監督する者であるから、被告会社の被用者である訴外小池がその事業の執行につき側方不注意の過失によりひき起こした本件事故につき、民法第七一五条第二項、第一項により、原告に生じた後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 治療関係費

原告は、本件事故により前記傷害を受け、昭和五一年五月四日から同年八月一〇日までの九九日間、及び昭和五二年七月一八日から同年八月一五日までの二九日間、合計一二八日間安田病院に入院し、昭和五一年八月一一日から昭和五二年七月一七日まで及び同年八月一六日から昭和五四年二月二三日まで同病院に通院し、治療費として合計金五七七万五二六〇円を要したほか、付添費金一八万一二〇七円(職業付添婦につき金一六万六二〇七円、原告の妻につき一日当たり金二五〇〇円、六日分合計金一万五〇〇〇円)、交通費金二六万四〇六〇円(昭和五一年八月一七日から昭和五四年二月二三日までのバス、電車代等の実費合計)、入院雑費金七万六八〇〇円(一日当たり金六〇〇円、一二八日分合計)をそれぞれ要した。

(二) 休業損害

原告は、本件事故当時四四歳の男子で、大工として一か月平均金二〇万九六六六円の収入を得ていたところ、本件事故により前記傷害を受け、入通院して治療を受けたため、昭和五一年五月から昭和五四年二月までの三四か月間仕事を休まざるを得なかったので、右期間の休業損害は合計金七一二万八六〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。

(三) 後遺障害による逸失利益

原告は、前記のとおり入通院して治療を受けたが、昭和五四年三月二日症状が固定し、頚椎の運動制限、頚部、背部及び腰部痛、左上下肢のしびれと痛み、左手握力低下等の後遺障害を残し、終身労務に服することができない状態となったが、これは自賠法施行令別表の後遺障害の等級第三級第三号ないし第四号に該当し、労働能力喪失率は一〇〇パーセントである。そこで、一か月金二〇万九六六六円を基礎として、稼働可能な二〇年間の逸失利益につき、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して現在価額を算出すると、次の計算式のとおり、金三一三五万四七九五円(一円未満切捨て)となる。

209,666×12×12.4622=31,354,795

(四) 慰藉料

原告は、本件事故により、前記傷害を受け(前記のとおり入通院して治療を受けたが、前記後遺障害が残存し、原告の受けた肉体的、精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものである。

これに対する慰藉料は、入通院期間につき金一七五万五〇〇〇円、後遺障害につき金五四九万円、合計金七二四万五〇〇〇円が相当である。

(五) 合計

以上の原告の損害を合計すると、金五二〇二万五七二二円となる。

(六) 減額及び控除

本件事故に関しては、原告にも過失があり、事故発生の一因をなしているので、本件事故の原因に占める原告の過失の割合を二割とみて、右金額から二割を減額すると、金四一六二万〇五七七円(一円未満切捨て)となるところ、原告は被告から合計金八七四万一四六七円の支払を受けたので、これを控除すると、残額は金三二八七万九一一〇円となる。

(七) 弁護士費用

原告は、被告らが任意に損害賠償債務を履行しないので、原告訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任し、報酬として請求額の一割に当たる金員を支払うことを約したが、その金額は金三二八万七九一一円である。

4  そこで原告は被告らに対し、各自右(六)及び(七)の合計金三六一六万七〇二一円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五三年九月一三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実は認める。

(二) 同2(二)のうち、被告三瓶が被告会社に代って事業を監督する者であることは否認する。被告会社は、従業員数が五〇数名で、二か所に支店を有する株式会社であって、被告三瓶の個人会社ではない。

同2(二)のその余の事実は認める。

3(一)  同3(一)のうち、原告が主張のとおり入通院して治療を受けた事実及び治療費合計金五七七万五二六〇円を要したことは認める。付添費として金一八万九七五九円を要したことは認める。交通費は知らない。入院雑費は一日当たり金四〇〇円、一二八日分合計金五万一二〇〇円を認め、これを超える部分は否認する。

(二) 同3(二)の休業損害は、金七〇二万七〇一八円の限度(一か月金二〇万円として一〇五四日分)では認め、これを超える部分は否認する。

(三) 同3(三)の逸失利益は、金二五九万四四九一円の限度では認め、これを超える部分は否認する。

すなわち、原告の後遺障害は、軽度の整形外科領域、腰部外科領域の障害が少し残る程度の症状であって、自賠法施行令別表の後遺障害の等級第一二級第一二号に該当し、労働能力喪失率は一四パーセントで、喪失期間は一〇年とみるべきである。したがって、原告の後遺障害による逸失利益は、次の計算式のとおり、金二五九万四四九一円(一円未満切捨て)となる。

200,000×12×0.14×7.7217=2,594,491

(四) 同3(四)の慰藉料額は争う。

慰藉料額は、入通院期間につき金一六〇万円、後遺障害につき金九六万円が相当である。

(五) 同3(六)のうち、原告が被告から合計金八七四万一四六七円の支払を受けたことは認める。

(六) 同3(七)は争う。

三  抗弁(過失相殺)

原告は、本件事故現場の一〇〇メートル手前から、被告車が進行方向左前方の路外駐車場から車道に進出しようとしているのを認めながら、前方の安全を十分確認せずに漫然と従前の速度のまま直進した過失があり、本件事故の原因に占める原告の過失の割合は三割以上であるから、少なくとも三割の過失相殺がされるべきである。

四  抗弁に対する認否

原告にも過失があったことは認めるが、過失割合は否認する。原告の過失割合はせいぜい二割である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1(事故の発生)の事実、同2(一)の被告会社が自賠法第三条の運行供用者責任を負うこと、同2(二)のうち、被告会社の被用者である訴外小池が被告会社の事業の執行につき側方不注意の過失により本件事故をひき起こしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、被告会社は被告三瓶の個人会社であり、被告三瓶が被告会社に代って事業を監督する者であると主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、被告会社は、それまで被告三瓶が個人で営業していた土木建築業を昭和三五年一〇月ころ株式会社形態にしたものであるが、本件事故の発生した昭和五一年五月当時の主な業務内容は、土木建築工事の請負、設計、管理、不動産の売買、仲介、ボーリング場等の経営であり、肩書住所地に本店を、埼玉県越ヶ谷市に支店を、同県戸田市にボーリング場を有していたこと、当時従業員は本店に約二〇名、越ヶ谷支店に三名、ボーリング場に約三〇名いたが、本店には営業部、設計・工事・建築部及び経理部の三部を置き、各部の部長が日常業務を監督していたこと、越ヶ谷支店は本店の営業部長が支店長を兼ね、その業務を監督していたこと、ボーリング場には支配人を置き、支配人が日常業務の監督に当たっていたこと、被告三瓶は、代表取締役として、右業務の全体を統括していたこと、がそれぞれ認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、当時被告会社が被告三瓶の個人会社であったということはできないし、被告三瓶が被告会社の代表取締役であったという事実だけでは、被告三瓶が実質的に被告会社に代って被用者の事業執行を監督していたものと認めるには十分ではなく、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

したがって、原告の前記主張は失当である。

三  そこで、損害について判断する。

1  治療関係費

(一)  原告が本件事故により受けた前記傷害の治療のため安田病院に入院し、治療費として合計金五七七万五二六〇円を要したことは当事者間に争いがない。

付添費については、被告は原告主張の金一八万一二〇七円を上回る金一八万九七五九円を損害と認めているので、原告主張の額の限度で当事者間に争いがないことになる。

交通費については、《証拠省略》によれば、原告は、昭和五一年八月一七日から昭和五三年四月二八日までの間、本件事故により受けた前記傷害の治療のため安田病院等に通院し、交通費として金一一万七〇六〇円、同年五月一日から昭和五四年二月二三日までの間、同じく安田病院等に通院し、交通費として金七万七八六〇円、以上合計金一九万四九二〇円を要したことが認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

次に、原告が本件事故により受けた前記傷害の治療のため安田病院に一二八日間入院したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は一日当たり少なくとも金六〇〇円の入院雑費を要したことが認められるので、一二八日分の合計金七万六八〇〇円が損害となる。

2  休業損害

《証拠省略》によれば、原告は、本件事故当時四四歳の男子で、大工として一か月平均金二〇万九六六六円の収入を得ていたこと、本件事故により前記傷害を受け、前記のとおり入通院して治療を受けたため、昭和五一年五月から昭和五四年二月までの三四か月間仕事を休まざるを得ず、その間収入を得ることができなかったことが認められるので、右期間の休業損害は金七一二万八六四四円となり、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。したがって、その範囲内である原告の休業損害金七一二万八六〇〇円の請求は理由がある。

3  後遺障害による逸失利益

《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、前記のとおり入通院して治療を受け、昭和五四年三月二日症状がほぼ固定し、自覚症状として、頸部、背部及び腰部痛、左偏頭痛、左肩関節部痛、左側胸部痛、左上下肢のしびれ感、腹痛、左眼のぼやけた感じと左耳鳴があり、他覚的所見として、頸椎の運動制限及び運動時痛、脊柱の強度の前湾及び運動制限と叩打痛、左顔面及び上下肢の軽度の知覚障害(鈍ま)、左肩関節及び左股関節の運動制限、左坐骨神経の圧痛及び伸展時痛、左握力の低下がみられた。

そして、調査嘱託の結果及び証人高濱晶彦の証言中には、原告の神経系統の機能障害と左半身の痛みやしびれについては、それぞれが年次や季節により、多少の症状の変化はみられるが、継続的には余り変化がなく、現在の症状が持続し、後遺するものと考えられること、後遺障害等級は、第三級の三、四号から第五級の二、三号の中間位(現在ではむしろ第三級に近い。)に位置すると考えられ、痛みやしびれが軽減するときには、特定の軽作業には従事できるが、症状が増悪した時には軽作業の労務にも服することはできないと考えられる旨の記載及び供述部分がある。

しかし、他方、《証拠省略》によれば、昭和五五年一一月ころ原告は肩書住所地において一人で生活していたこと、同月二〇日、○○○○○○リサーチセンターの調査員乙山春夫が原告を尾行調査したところ、原告は、自宅からオートバイに乗って外出し、清瀬駅近くで下車し、一方通行の出口で進入禁止となっているところから、エンジンを切ってオートバイを手で押して歩いていったこと、原告の乗っていたオートバイはスターターを足でキックしてエンジンをスタートさせる方式のものであること、がそれぞれ認められる。

証人高濱晶彦の証言によれば、同人は、原告の症状ではキックしないとスタートしないようなオートバイには絶対乗れないと判断していることが認められるが、右の事実に照らすと、同人の判断は明らかに事実に反する誤った判断であり、同人が原告の主訴を過大に評価し、実際以上に後遺障害の程度を重篤に考えているものと推認されるから、原告の後遺障害等級を第三級ないし第五級とする同人の判断はたやすく採用することはできないものといわざるを得ない。

もっとも、頸椎の運動制限、頸部、背部及び腰部痛、左上下肢のしびれと痛み等の症状に照らすと、原告が服することのできる労務が相当程度制限されることは否定できないが、前記のとおり、原告が医師高濱晶彦から、自己の後遺障害の程度を実際よりも重篤な状態にあるものとの診断を受けていることに照らすと、原告は自己の症状を実際以上に過大に評価されるのを求める傾向があり、後遺障害についても心因性の部分があるものと推認でき、右事実、その他前記認定の傷害の内容、治療の経過、後遺障害の内容等諸般の事実を併わせ考えると、原告の症状固定後の労働能力喪失率は、二五パーセントとみるのが相当である。

そこで、前記認定の原告の一か月の収入金二〇万九六六六円を基礎とし、労働能力喪失率を二五パーセントとして症状固定後稼働可能な六七歳までの二〇年間の逸失利益につき、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して現在価額を算出すると、次の計算式のとおり、金七八三万八六九八円(一円未満切捨て)となる。

209,666×12×0.25×12.4622=7,838,698.8

4  慰藉料

原告が本件事故により前記傷害及び後遺障害を受けたことは前記のとおりであるところ、《証拠省略》によれば、原告はこれにより多大の精神的苦痛を受けたことが認められ、これに対する慰藉料は、金三五〇万円が相当であると認められる。

5  合計

以上の原告の損害を合計すると、金二四六九万五四八五円となる。

四  次に、抗弁(過失相殺)について判断する。

《証拠省略》によれば、訴外小池は、本件事故現場付近の路外駐車場から車道に進出しようとした際、約三六・四メートルの距離に原告車を発見したが、被告車の前部を少し車道に出した方が原告も被告車に気づき易いし、また原告車は被告車の前を十分通過できるだろうと考え、被告車の前部を少し車道にはみ出させて停止したこと、当日は雨が降っていたので、原告は、ハンティングをかぶった上からヘルメットをかぶり、少し下向きかげんで進行したため、前方に対する注意が十分でなく、被告車に気づいた時には避ける余裕もなく衝突してしまったこと、原告車は道路左端から約六五センチメートルのところを直進していたが、本件事故当時現場付近には原告車と同方向に進行する車両はなかったから、原告が前方を注視しておれば被告車をもっと早く発見し、ハンドルを右へ切って衝突を避けることは可能であったことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

以上の事実関係に照らすと、原告の本件事故についての過失割合は二五パーセントと認めるのが相当である。

そこで、前記三5の金額について、過失相殺による二五パーセントの減額をすると、原告の損害賠償債権額は金一八五二万一六一三円(一円未満切捨て)となる。

五1  原告が被告から金八七四万一四六七円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、これを前項の金額から控除すると、残額は金九七八万一四六円となる。

2  《証拠省略》によれば、原告は、被告らが任意に損害を賠償しないので、原告訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任し、報酬として請求額の一割に相当する金員を支払うことを約したことが認められるところ、本件事案の内容、性質、訴訟の経緯、認容額等諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めうる弁護士費用は、金一〇〇万円と認めるのが相当である。

これを前項の金額に加えると、原告の損害賠償債権額は合計金一〇七八万一四六円となる。

六  以上により、原告の本訴請求は、原告が被告会社に対し、右金一〇七八万一四六円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五三年九月一三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被告会社に対するその余の請求及び被告三瓶に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 芝田俊文 富田善範)

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